たまねぎをむく男
静かな夜には、ひとりで
ちいさなお話を考えたりします。
ええ、さみしい夜の
ことばあそびです……
たまねぎをむく男
その男は
恋人を失ってからというもの
自分の部屋にとじこもって
まいにち まいにち
朝から晩まで
たまねぎをむいていました。
男の目から
あふれつづける涙は
ひとりぼっちの部屋の中の
あちらも こちらも
すみからすみまで
水びたしにしていきました。
まいにち まいにち
男のさみしい目は
六月の空のように
涙をながしつづけました。
くるひも くるひも
けっして休むことなく
男はひたすらに
たまねぎをむきつづけました。
そしてついにある日
自分がながしつづけた、
海水のような量の涙におぼれて
男は死んでしまったのです。
世界でいちばん最初に
たまねぎ自殺に
成功した男の話です。
(完)