そーゆーブログ2

言葉と夜と本たちと

月の見える朝には 他1篇

 

 

20年以上前から、本当にチラシの裏や、古いノートの片隅などに書きつけていたものです。本来であれば、まちがいなく古新聞と一緒に捨てられいく、個人的な、つたない書き物です。これらを、人様の目にふれる場所に置くことをどうぞお許しください。

  

アルバイト時代の日記から、福岡市での工場勤務の一風景です。わたくしの一人称が「おれ」だった、青い時代の記録です。当時の仲間たちは、その頃のことを、もう忘れているかもしれません。でもわたくしはきっと、一生忘れないと思います。彼らのことを書き留めたものを、今でも読んでしまうから。

 

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月の見える朝には

 

毎朝午前3時、日銀福岡支店前に、

博多ふ頭行きの送迎バスが停まる。

 

ふ頭にある工場で働く人たちを乗せるために、

晴れの朝も、風の朝も、雨の朝も、盆も、正月も、

郵便配達人のように送迎バスがやって来る。

 

働かない内縁の夫と子どもたちを養うために、

来年の春にトンカツ屋を開くために、

高校をやめたあとアメリカで暮らすために、

アパートでのひとり暮らしを続けるために、

金髪主婦、

ハチマキおっちゃん、

17才少女、

40才おねえさん、

いろんな人たちがバスに乗り込む。

 

晴れた朝にはいつもバスの窓から月が見える。

そのたびにおれは隣の席の金髪に言う。

 

「ほう、今朝の月は

女の笑った口もとみたいだ」

 

「へえ、今朝の月

まるで女のヘソみたいだ」

 

金髪は笑いながら、おっちゃんを見る。

おっちゃんは、17才に目で合図をする。

17才は、おねえさんにほほえみかける。

 

でも月の見えない朝には、

工場に着くまでみんな目を閉じている。

 

        ☨

 

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日本一昼飯を食わない男

 

アジア食品博多ふ頭工場の山内さんは

二十七才  次男  両親と三人暮らし

酒は飲まないけれど

麦芽飲料ミロを愛飲する

 

アジア食品博多ふ頭工場の山内さんは

けっして昼飯を食わない

 

「山内さんはよ、いっつも昼飯を食わねえで、

いっつもぐったり横になってんだよなあ。

ありゃぁ、どっか悪いんじゃねえのか、

いっつもよ」 同僚のおっちゃんが心配する

 

でも山内さんは  朝食 夕方食 深夜食と

自分のリズムで一日きっちり三食とっている

 

アジア食品博多ふ頭工場の山内さんは

月曜から金曜まで眠らない

 

朝から夕方まではひたすら製麺工場で働く

工場の仕事が終わって制服を脱ぐと

今度は荷物を配達するために

朝まで軽トラックを運転する

 

やがて朝日が昇るとトラックを降り

しっかり朝食をとったあと

缶入りの麦芽飲料ミロを一本飲む

 

それから製麺工場の白い制服に着替えると

夕方までひたすら、ただひたすら工場で働く

そして休みの土日に意識を失う

 

アジア食品博多ふ頭工場の山内さん……

 

たぶんナポレオンより眠らない男

ときどき五分前の記憶が飛ぶ男

もう少しで目標の二千万円を貯める男

 

「もう限界よ。からだボロボロ。

でも俺が金を貯めつづけるから、

親の老後は大丈夫やろうと思う」と言う男

 

そしておそらく

日本一昼飯を食わない男

 

アジア食品博多ふ頭工場の山内さん

アジア食品博多ふ頭工場の山内さん

アジア食品博多ふ頭工場の山内さん

 

死ぬなよ  頼むから。

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