そーゆーブログ2

言葉と夜と本たちと

お祭りの記憶

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 静かな夜です

 

わたくしのお祭りの記憶は

音と匂いと

手のぬくもりです

 

笛太鼓、呼び込み、足音

いか焼き、焼そば、りんご飴

父母、弟妹、やさしかったひと

 

夏の日も

秋の日も

幼かった日も

幼くなかった日も

わたくしの見たお祭りはいつも

同じ顔をしておりました

 

お祭りの記憶はいつも

――日に焼けた古い写真

――スロー再生の映画

――目を閉じて読む短篇小説

 

お祭りの記憶はたとえば

――初めて買ったレコード

――卒業した小学校の廊下

――若かったちちははの笑顔

 

お祭りの記憶は……

 

        †

 

「あのね、あたしたち、

ふたりとも千円持って、

おたがいに好きなお店を

三つずつ選んで、

お店の前でじゃんけんして

負けたほうがおごるの。

ね、いい考えでしょ?」

 

三回とも負けていいから

あの娘(こ)ともう一度

じゃんけんをしたい

 

        

 

「ねぇ、おかあさん、

アメリカンドッグ買って。

あのおめん買って。

りんご飴買って。

あの光るボール買って。

金魚すくい……」

 

貧しかったから

そんな言葉を全部

飲み込んで歩きました

お祭りの匂いだけでよかった

 

        

 

……さて、今夜はこのあたりで

失礼させていただきましょう

 

お祭りの記憶がもしも

さみしい夜汽車なら

私は乗り込むことなく

静かに見送ることにいたします

 

「かなしみはいつも外から見送るものだ」

どこかの詩人さんも

そう言われておりましたから

 

おやすみなさい……

 

 

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